渡邉史也さんは、所属した青年海外協力隊の国内研修のため、初めて上士幌にやってきた。
大学卒業後、青年海外協力隊として海外への派遣が決まっていた。ところが新型コロナウイルス感染症の拡大のため、国外へ出ることが出来なくなってしまった。
縁あって同じ青年海外協力隊で、海外派遣を待つ仲間と共に上士幌町で国内研修をすることになった。研修では約5か月滞在し、その中の1か月の間、生活体験住宅に入居し上士幌町で色々な経験をしたそうだ。
長いもの収穫、酪農の手伝い、町の人の困りごとの手伝い(例えば庭掃除、窓拭きなど)与えられた仕事だけをするだけでなく、町の困りごとを自分たちで探すこともした。些細な仕事もあったが、町のことを知ったり、町の人に自分のことを知ってもらうには良い機会だったそうだ。
上士幌町での研修が終わり、半年後、海外に派遣されることが決まった。それまでの少しの期間だけでも、生活体験モニターとして上士幌に滞在ができないか相談し、滞在が決まった。
2度目の上士幌はもう知らない町ではないし、懐かしい気がしたそう。それに以前知り合った町の人と再会するのもとても楽しみだったと言う。青年海外協力隊の研修で町の、色んな年代・職業の人と知り合い、それが大きな安心となり上士幌にいたいと思う理由だったという。
1度目に来たときは初秋だったが今回は夏を体験した。夏は本州と比べると過ごしやすい、エアコンがいらない、そして早朝は寒いことを知った。オンラインで語学研修を受けながら上士幌で海外へ行くまでの日を過ごした。
生活して感じるのは町がコンパクトにまとまっているので車が無くても生活がしやすいことだそう。歩いてスーパーや公共施設に行ける。しかし不便なところもある。町内の店は18~19時に閉まってしまうし、欲しいものが町内で買えないこともある。帯広市までは、4、50分かかり、バスは片道970円もする。その支払いに交通系ICカードは使えない。
そんな不便なこともあるが、車があれば上士幌からは道内旅行がしやすいことも分かった。上士幌は北海道の真ん中近くにあるので北海道を楽しみたい人には上士幌町はおすすめだという。
新型コロナウイルス感染症の終息が見られず、自分の海外派遣が不透明になり、2か月間の滞在を1年に延ばし、1年を通して生活体験をする中で冬の厳しさも知ったと言う。
夏は本州に比べて断然過ごしやすいが、冬の寒さは厳しい。量は少ないと言っても雪は降るので除雪はしなければならないし、暖房費(灯油代)が月に2万円前後かかったことも、野菜の値段の高さにも驚いた。
1年に延ばした生活体験の中で色んな体験をし、町なかの色々な人とも知り合い、その繋がりを心地よく感じるようになった。そんな生活を送るうち海外派遣を待つより、この北海道で暮らそうと気持ちが傾いていった。
もともと料理が好きなこともあり、十勝の食と気候も自分に合っていると感じた。食や気候だけでなく広々とした景色も気に入っている。しかし、不便なところもある。自分の経験から、移住を考えている人は冬の生活体験をした方がいい、と強く思うそう。
北海道で暮らすことを決めたからといって仕事や住宅はすぐには見つからなかった。とにかく北海道暮らしがしたい、上士幌で暮らしたいと思う気持ちが先だった。しかし仕事を探すうちにだんだん自分のやりたいことが見えてきた。すぐには出来なくてもやりたいことにつながるような仕事をしたい、であれば何でもいいわけではない。住宅も町営住宅はまず仕事が決まっていないと入れないし、民間のアパートでは生活を圧迫する家賃になってしまう。やりたい仕事とできる仕事の合致が難しかったそうだ。
幸い、生活体験の期限が切れる前にひとまず仕事と住宅を見つけることが出来たが、上士幌町では仕事にしても住宅にしても「ある」時に決めないと次はないかもしれない、と感じたそう。「選ぶ」ではない、「それに決める」かどうか、とも言える。それだけに勢いだけで移住してしまうと苦労する人もいるのではないだろうか、と。
彼の夢、思いが上士幌で形になって欲しいと願わずにはいられない。
★プロフィール
2020年に青年海外協力隊の国内研修で初来町。
その後1年の生活体験を経て2022年6月に移住